JAPAN TRADEMARK ASSOCIATION
2002年10月24日
弁理士 松田 治躬
商標制度の根幹は、営業活動により築き上げた信頼をマークに集め、この著名にしたマークを更に継続使用し、安定した利益を得ようとする先駆者に対し、悪意ある者が、そのマークを全く同一にし、又は、見間違える範囲で模倣し、この先駆者の利益を横取りしようとする行為を、法律上の手続で迅速に排除できるようにすることにある。
悪意ある者が最も模倣を望むマークは、市場性の高い著名な商標であるが、法律の存在をある程度理解しているため、これを短期に模倣して逃げ出すか、又は、市場性のやや薄い次位的な周知商標程度(外国では著名を含む)を模倣し、模倣者自身の模倣量・模倣期間を確保する等の方法がとられている。
又、企業活動の一環として悪意とは決め難いが、競業会社の新商品と同じ路線上の雰囲気を持つ商標の採択も多く行われているが、これらの紛争は、感情的な行き過ぎや、各種媒体に取り上げてもらうための広告活動に近いものも多い。
日常多く行われている警告状のやり取りは、模倣する意図は全くない、何となく記憶にあった商標を採択した場合や、調査もせず使用した商標が、他人が使用する無名な登録商標に偶然抵触したり、又は、権利者側の自信過剰による模倣されたとの思い込み(非類似が多い)であったり、最も多くは、模倣のあり得ない不使用商標に基づいて警告されたり等、先駆者の利益の横取りと関連の薄い、警告を受け取った側が不本意に感ずる(だから争訟になり易い)商標制度の本来の目的と若干異なる事件が殆どである。
これら後者の偶然性が強い侵害事件にあって、利益の横取りが考えられなくても、商標が同一に近い侵害は、登録主義を採る法制度上やむを得ないと思われるが、類似範囲の問題(特に類似商標を類似商品に使用)、又は、思い込みによる非類似商標からの主張に至っては、法律を斜めに噛じった悪しき隣人の論理と同様、気の毒な例も多い。
ただ、このような事件も、商標制度の浸透や著名商標に近づかない為の学習効果と考えると、事前整理を旨とする先願主義・登録主義の制度には必要なことである。
以上のように、保護が最も必要なのは、「著名商標」であり、これは極く一部の「ペットネーム」(ファミリーネームを含む)の場合もあるが、「ハウスマーク」(コーポレーテッドマークを含む)がその殆どを占めている。
しかし、これら「著名商標」の権利行使自体は、商標法上特段の配慮がなされておらず、現に存在する「防護標章制度」は、形式のみの自己満足に近い登録であって、「防護標章登録」を核にして争った事案はなく、この登録は、民間発行の「有名商標集」と同程度の「周知性の疎明資料」であって、制度の存在に拘わらず、機能していないのが現状である。
(1)「防護標章制度」は、昭和34年の商標法改正により新たに採用された制度である。「本来の商標権の効力の範囲は、商標法第25条及び第37条1号の範囲でしかない。
著名商標の排他独占的使用を確保するためには、画一的な類似範囲の禁止権では足りず、流動的な出所の混同の範囲の保護が必要である。
そこで、登録による画一的な保護を手段とする商標制度にあって、審査により予めその範囲を確定し、同一商標に限り、迅速な救済を保障しようとしたのが防護標章制度である。」(逐条解説要約)
(2) 「防護標章制度」が成立する昭和29年の審議会答申案では、「登録商標が周知になり、非類似商品でも出所の混同が認められる場合、その商品に使用する意思がなくとも同一・類似商標について防護商標登録を受けることができる。
防護商標は商標とみなし、別段の規定がない限り、商標に関する規定を適用する。」(要約)と答申していたが、「類似商標」が外れ、「商標」が「標章」に変わる保護となった。
(3)35年後の、平成6年9月の工業所有権審議会商標問題検討小委員会の冒頭では、
※防護標章制度の問題点
| 「 | (A) 現在不競法の保護が十分で利用価値が低くなっている。 (B) 物理的同一商標に限られ、制度自体に制約がある。 (C) 登録時点で著名性・混同のおそれを固定化し禁止権を不当に広げる。 (D) 使用した場合を想定し登録するので認定が難しい。 (E) 国際的ハーモナイゼイションからも問題点がある。」 |
※存続論に対する反論
| 「 | (A) 不競法著名性認定の証拠事実として主張が容易(反論・・・・登録時の判断と争訟判断時が異なり再度の立証が必要) (B) 水際対策上有効である(反論・・・・副次的効果に過ぎず、関税定率法の問題点として検討すべき)」 |
※提案者(特許庁)の見解
| 「 | (A) 不使用を前提とする商標制度の例外であり、廃止しても問題がない。 (B) 不競法(2号)の改正で著名標章と出所の混同が分離保護されている。 (C) EC統一指令では著名商標につき不登録事由を義務づけ、救済規定をおくことができる旨定めベネルクス・仏・英は商標法で規定している、しかし仏・英では不競法がない。」 |
※対応の方向
| 「 | (A) 防護標章制度は廃止する。 (B) 第4条に著名商標保護の不登録事由を設ける(現19号)。 (C) 水際規制は担当官庁で検討されることを期待する。」 |
の如く、全く「廃止論」を前提に法律改正の議論が始まった。
(4)平成7年12月13日工業所有権審議会答申
「防護標章制度については、出願に係る料金を通常出願より高目に設定すること等を前提として存続させることが適当である。」(原文通り)
| ■理由(要約) (A) 不競法の著名表示冒用行為(2-1-2)に刑事罰がなく、著名商標保護のレベルが低下する。 (B) 不競法は関税定率法において水際対策にならず、その面の保護がなされなくなる。 (C) 国内・水際を含め、デッドコピーによる被害は少なくないため利用価値がある。 |
|
| ■付言(要約) (A)著名といえないものが存続しているとの批判に答え、著名性(全国的知名度対象)を厳格に。 (B)著名性の審査の厳格化を勘案して、出願料を高目に設定することが適当。 |
と理由付けし、付言している。
だが、「刑事罰」や「デッドコピー」も「防護標章登録」をもって解決した事例はなく、この両者も多くは「水際」における「超著名商標」問題に過ぎないことから、水際対策は「副次的効果に過ぎず、関税定率法の問題点として検討すべき」とした廃止論の提案からこのような結論に至った理由は見当たらない。
(5)平成14年9月
特許庁の要請により、商標制度の見直しの一環として、「防護標章制度の必要性」が、再び、知的財産研究所で議論開始されている。
(1)前段で説明した通り、模倣価値が最も高い著名商標の保護は、商標制度以前の大前提であり、不競法は勿論、あらゆる制度で迅速な対応を可能とすべきものである。
この著名商標の殆どが「ハウスマーク」(コーポレーテッドマークを含む)であり、「ペットネーム」(ファミリーネームを含む)の割合は少ない(防護標章登録の過去の割合・判例の傾向からも判断できる)。
しかし、この著名商標こそ制度が、又は、企業が存亡を賭けて守るべき財産である。
(2)商標制度は、著名に至っていない一般的使用商標の保護をも行うため、画一的な混同範囲(類似商品・役務・・・・類似群)を実務上据え、その周辺に分野を共にする商品・役務区分(45区分)を置き、これを出願の単位として出願等料金の徴収を行っている。
しかし、著名商標は、これらの平均的類似範囲・商品役務区分を超えて出所の混同を起こし、又、権利者は、自負心を加味してこれを越えて権利を主張しようとしている。
著名性の推移は、時間により異なり、これを防護標章制度における審査時点で固定することは不可能であるため、実務上も、争訟の時点で更なる立証が必要とされ、防護標章のみを主とした判決は見当たらず、防護標章登録の効果は、発刊されている「有名商標集」と同様に「著名性の推定」の域を出ていない。
(3)使用を前提としない商標の登録は、商標法第3条の柱書きからも制度趣旨にそぐわないが、現に、防護標章制度が「標章」と変えたことにより不使用を前提に商標制度内に存在していたところであり、又、同3条の柱書き自体、出願人の真意の確認は不可能で、これに反する使用意思の不明確な出願や、登録商標は現状でも極めて多く存在している。
これらの出願や登録商標の存在に対しては「不使用取消審判」の更なる活用で対処し、判断不可能な「出願における使用の意思」は、「登録保持における使用の強制」(第50条の制度趣旨)と同様に曖昧に解したところで現状は何ら変わらないところである。
(4)「著名商標」の商標使用者は、現にそれなりの利益を得ている者であり、その利益の継続を望む者である。従って、その利益の一部を拠出したとしても、その利益の維持継続に直接繋がるものであれば、権利者自身がこれを比較衡量し新たな制度を利用することになり、著名性に基づく利益が見込めなくなった場合、費用節減を行うのが通常である。
又、登録主義の下、「著名商標」を目指し、先行投資する者は、その希望する範囲において事前に投資し、成功した場合これを継続・拡大し、挫折する場合投資を縮小・廃止するのが通常である。
(5)従って、「利益の一部拠出」、「先行投資」は、これに見合う強力な保護制度が存在すれば、その利益との均衡で必要な範囲・期間のみ行われるものであり、これに対応する制度があれば、必要な期間、必要な金額で自主的な「著名商標」の保護が可能となる。
そこにおいて、「防護標章登録制度」を変え、「特別商標登録制度」と改名し、
※「高額な登録料を前提に、権利者が混同を生ずると認識する範囲、又は、著名にしようと意図する範囲に、通常の商標登録出願と同様の審査で、通常の登録商標と同様に類似範囲にも効力を認め、使用の有無にかかわらず、不使用取消審判の適用除外とする制度」を構築すべきである。
(6)これにより、現在著名商標を有する権利者は、従来の防護標章に比べ通常の商標権と同等の強力な権利を必要な範囲に堂々と登録保持でき、又、将来著名とする意図をもつ者は、事前に必要な領域を確保し長期計画を実行できる等の利益のほか、審査官の現実的に不可能な「著名」なる判断が不要となり、権利者の利益との衡量による自主選択で時宜に適した登録件数となるものため、使用廃止後の不自然な登録が自動的に排除されることになる。
但し、この登録料は、著名性(利益状況と一致)との兼ね合いを考慮して、単に企業格差で乱用され得ない極めて高額とし(1区分ごと年間50万〜100万?)、権利者が自身がその存続の必要性を判断できるよう、1年ごとの分割納付制度(10年一括も可)をとることにより、現実に適合した分野・期間の保護が可能となるものである。
(7)なお、多区分の使用を現実に行っており、多くの商品・役務分野で著名を主張し得る多角経営企業は、通常の商標権の取得で十分と考えられ、各登録商標の不使用部分は不競法で済み、このような高額保険の如きに加入する必要も少ないであろう。
又、第三者にとっては、「特別登録」を現時点での著名商標の一覧表と理解することにより、不競法でいきなり異なった領域から争いを起こされることも少なくなるものである。
更には、現在の防護標章制度において、出所の混同を超え感情的分野まで網を広げた登録も見受けられるが、権利者の得る利益との均衡により必要な分野・期間を冷静に判断させる、極めて明朗な制度であると考えられる。
(8)本制度採用により、紛争時における周知性・著名性の立証は、従来どおりその時点における挙証を必要とされるが、現「防護標章制度」の如く「著名性判断の困難性」、「著名性判断結果の不透明性」、「著名性継続の不自然性」が自動的に解消され、「著名性と利益」の関係からバランスのとれた件数の登録が、自主的判断で時宜に適し登・退場するため、労なくして社会的に重要な商標のリストが明確となるものである。
以上
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